プロを唸らせる木

第55回「全国銘木展示大会」会場・岐阜銘協にて 2011.11.16

初めまして、フリーライターの山口と申します。

熊倉さんとは、かれこれ6年のおつきあいになります。

当時、初めて書いた記事がこれです。↓

 人と樹木の共生を支える、知られざる職人・空師(そらし) 2005/11/16

http://janjan.voicejapan.org/living/0511/0511145128/1.php

いま読むと、伐採についての理解が浅く稚拙な文章なのですが、記事の日付けを見てちょっと驚きました。

2005年11月16日とあります。

じつはこの日からちょうど6年目となる先日、私は熊さん・大前さんと岐阜の全国銘木展示大会に来ていました。

以前から大きなセリがあれば見に行きたいと思っていたのが叶い、同行したのです。

熊倉林業が出品したケヤキ丸太は、「中部森林管理局長賞」を受賞したと聞かされていました。

そしてこの日、予想外の大会最高単価で競り落とされたのです。

会場には銘木をもとめて全国から人が集まるわけですが、この木はとにかく見る人見る人みんなに褒められていました。

いずれも劣らぬ銘木ばかり。最初はどの木もそうかと思いきや、どうもそうではないことにしばらくして気づきました。

プロを唸らせる木---熊さんいわく開業10年にしての快挙とのこと。

記念すべき日に立ち会えたのは幸運でした。

そして、その日が最初の記事からちょうど6年目だったという巡りあわせに不思議な縁を感じます。

これは、かの木の伐採前の立ち姿です。

ケヤキの語源は「けやけき木」、つまり「他とは違って際立ってすばらしい木」という意味だとの説があります。

多くの目利きたちが市売のこのケヤキの前で足を止め、撫でたり擦ったり談笑したりしている光景を見ていると、そんな俗説も素直に信じられるのでした。

私は木についてはまったくの素人です。

知識は本で読むか伝聞ばかりでほんとうの自然のことはわかりません。

6年前に記事を書いたとき、じつは空師の仕事が何なのかもまるっきりわかりませんでした。

話を聞いて作業のことを理解したつもりでも実感が湧かないのです。

ですから、現場作業を少し見てあとは想像で補って書くしかなかったのです。

おかげさまで、あのときに比べれば多少は知見が増えたかもしれません。

しかし、かの銘木の年輪になぞらえて言うと、6年とはわずか1ミリか2ミリの成長に過ぎないでしょう。

りっぱな木を前にすると、「自分はまだまだだな」と謙虚になれます。

拙速に知識を身につけて変に曲がってしまうより、「ぼちぼちやろう」と開き直りもするのです。

なにも語らない木は、ときに雄弁な人生の先達として示唆を与えてくれる気がします。

なにも知らないよそ者を、そんな世界にいざなってくれた熊さんに、6年目にして感謝するしだいなのです。